2018年1月15日月曜日

画狂老巨人・北斎の肉筆富士

お待たせしました。新春第2弾の当コーナー、(PC不調による)遅ればせながらの投稿です。

「名作美術館(その229)」


「画狂老人・北斎の肉筆富士・二題」


今回は我が国が世界に誇る「富士」と「北斎」の両者の揃い踏み絵画を取り上げました。
当コーナー上で取り上げた北斎の肉筆画は2点目(前回は西瓜図)で、久々の登場です。
グラフィック的な浮世絵木版画とは一味も二味も違う肉筆の世界、とくとご鑑賞下さい。

「不二図」絹本着色、1847年、28,7 x 37,6cm

上の「不二図」、北斎晩年87歳の肉筆画です。

「富嶽三十六景」などで有名な明朗な色彩を持った木版画の浮世絵等とは異なった画風には凄味すら感じます。
背景の空や富士の中腹の藍色の調子には木版では表現不可な繊細かつ幽玄なボカシが活かされ施されています。

木版画が白い和紙を絵画の基盤と成しているのに比し、肉筆画は黄土味のあるより暗い絹本を土台にしており、
その効果で空気感がいっそう重厚になり、必然その画面は明朗な木版画とは一線を画す世界を築いています。
上作品で言えば、背景の空の左上がその絹本の生成色のままで、その他の部分は淡い墨色を引いています。
富士の高嶺の雪帽子部分は、絹本の上に胡粉の白で裾にはボカシを銜えながら厚く重ねて塗ってあります。
しかも巧みな構成で、前景に配された2本の松間越しに富士の頂を望むので、雪がより白く輝いて見えます。

葛飾北斎「富士と笛吹童」1839年頃

当作品、北斎79歳頃の作品との事。
前回取り上げた肉筆画は、西洋画的でリアルな表現の「西瓜(スイカ)図」で、やはり同年79歳頃の絵でした。
今回の作品も西洋画的な手法を用いており、遠近法による川面の表現に奥行き感があって、雄大な風景画です。

前景の樹上で富士を眺めながら笛を吹く少年の後姿もリアルで、幹に吊るした籠には山菜か、または川魚か、
一仕事を終えた少年が、暗雲立ちこめ始めた富士に視線を向けながら笛を吹く構図ですが、何やら暗く、
これまで親しんできた浮世絵(木版画)の北斎の富士のイメージとは異なる陰気な雰囲気が立ちこめています。

筆者がその画題に興味を持って調べたところ、笛吹川は山梨県は甲府盆地にあり富士川の支流とのことです。
しかも笛吹川と言う名前の由来には伝説があって、
洪水で失った母を笛を吹いて探し回った揚げ句、自らも溺死した少年の逸話が残っているとのことです。
当作品で北斎はその伝説を描いているようで、感傷に耽けずにその逸話を暗示する手法を用いています。
その伝説を知れば、空の暗雲も陰気な樹木も淋し気な少年の後姿も流れの速い川もまた納得するのです。
肉筆の水墨的手法でこそ表わされ得る大気の陰鬱さや少年の笛の音やその未来が画面に鬱積するのです。
また川面に点在する光も水飛沫なのか、はたまたホタルの発光なのか、黄昏時の寂寥感が漂っています。
その時、北斎の描く富士の姿形は、浮世絵木版画の明るい世界観とは異なる陰鬱な相貌を呈するのです。
そうして見ると、従来とは違う富士の雪渓の形は、少年から溢れ出た泪の雫と染みを代弁する徴しです。

ユーモアや軽妙洒脱さに長けた江戸の画狂老(巨)人・北斎の数ある顔のもう一つの現れかもしれません。

* * *

「筆者後記」

このコーナーをアップするにあたって、筆者はインターネット上で公開されている作品画像に全面的に依存しています。
その公開されている数々の作品画像群のおかげで、これまで7年間・合計229回と言うそれなりの存続が出来ました。
が筆者、当ブログ上で度々記していますが、我が国が世界に誇る伝統美術の作品群の良質な画像の少なさに落胆中です。
そんな良質画像の入手が困難な現状では、いつまで続くかは分かりませんが、可能な限り名品をご紹介するつもりです。
が、そんな良質画像のネット上検索・入手や編集に、これまで以上の労力や時間を要してしまいそうな気配が濃厚です。
欲求不満や徒労に陥ることなく、今年も楽しんでみようと思っています。
どうぞよろしくお願いいたします。


* * *



「ミュージック・ギャラリー(その301):富士山賛画」


今回の当コーナー、音楽の方は主役「富士山」のBGMとしての役目です。あらかじめご承知下さい。
投稿者はドローンと4kビデオカメラを駆使して、富士山をはじめ素晴らしい画像を生み出しています。
「不二」と漢字を充てる文字通り唯一無二・一番の「富士」の姿、ご堪能ください。

画像:「2017年の美しい富士を振り返る」
Rewind Beautiful Mt. Fuji in 2017 (4K). by Yutaka Nagai

美しい富士山の画像、youtube上には数多く投稿されていますが、その中からもう一つだけ・・・

画像:「富士山223」心揺さぶる山 / 静岡県・製作提供
" Mt.Fuji(yama) inspire your heart " / Presented by Shizuoka Prefecture Japan (2010)

動画にも北斎の描いた富士の浮世絵のごく一部が出てきましたが、それ以外のいずれもが傑作です。
浮世絵木版画「富嶽三十六景」の方も、またあらためて見たくなってきました。また描きたくもなってきました。


我が国を代表・象徴する「富士」と「北斎」、筆者もまたご多聞に漏れず両者を強く愛でる者の一人です。
筆者の住む街は大山の麓でその影に隠れて見えませんが、南へ少しだけ下るとその雄姿が垣間見られます。
これからも折を見て、世界に冠たる「画狂巨人・北斎」と「富士山」を取り上げていきたいと思っています。

By T講師

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